apple pie

城の中にある厨房で一人の男が何やら調理していた。
妙に慣れた手つきで手際よく作業を進めている。
やがてひとつの型に入れられた物を窯に放り込むと、ふう、と一息ついた。
「あとは焼けるのを待つだけだな」
そう言ってちらりと窯の方を見る。
「とは言っても、これを作るのは久し振りだから上手くいくかどうか・・・」


しばらくしてあたりにいい匂いがたちこめる。
「そろそろ・・・か?」
やけどをしないように注意しながら窯から焼かれた物を取り出してみる。
上手い具合に焼きあがっているようだ。
「うん、よし」
自分でも上出来だとそれを見て思い、これならきっと満足してくれるだろうと思った。


「うわ〜いい匂い」
不意に声が聞こえたのでそちらを向くと、メルヴィル、アラニス、エリオットの三人が厨房の入り口で中をうかがっていた。
匂いにつられてやってきたのだろう。
パーシヴァルの姿を見つけた三人は中に入ってきて、その注意は今しがた焼きあがった物へと向けられた。
「これ、アップルパイ?パーシヴァルさんが作ったの??」
「ん・・・?ああ・・・」
「すご〜い!!」
パーシヴァルが答えると三人は尊敬の眼差しで彼を見つめた。
「やっぱり騎士になるには料理くらい出来なくちゃいけないんですね!」
メルヴィルが目を輝かせて言う。
「いや・・・そういうわけでは・・・」
パーシヴァルは困ったように頭をかいた。
子供はやはり食べ物に弱いようで三人の注意は出来上がったばかりのアップルパイに向けられていた。
三人とも何も言わずにそれをじっと見つめているが、その顔は明らかに物欲しそうな様子だった。
「食べたいのか?」
パーシヴァルがそう言うと三人はいっせいに振り向いた。
「えっ・・・?」
「でも・・・」
ねえ・・・?と三人は顔を見合わせた。
「いいさ、こんなにあっても食べ切れないし」
そう言うと、パーシヴァルはナイフを取ってアップルパイを切り分け、一切れずつ皿に乗せると三人にそれぞれ渡してやった。
「味の保証は出来ないが、後で感想でも聞かせてくれ」
「パーシヴァルさん、ありがとう!」
三人はそれぞれお礼を言うと嬉しそうに厨房から出て行った。
「ふう・・・」
(本当はそのままの形を見てもらいたかったんだけど・・・仕方ないよな)
やはり子供には勝てない。
これを見てがっかりしないだろうかとそれだけが心配だった。


その日、昼もとっくに過ぎた頃、よく晴れた空の下をパーシヴァルは畑に向かって歩いていった。
こんなよく晴れた日は多分そこにしかいないだろうから。
畑に着くとやはりと言うべきか、その姿を確認できた。
「おーいっ、バーツ!!」
声をかけるとその姿はこちらを振り向いた。
「おー、パーシィ」
「今、手あいてるか?」
そうたずねると、バーツはぐるりと畑を見回して
「ん〜、ああ、ちょうど休もうと思ってたとこ」
そう答えた。
手近なところに木陰を見つけるとそこに二人で腰を下ろす。
「どうだ?仕事の方は?」
「うん、まあまあ。でもちょっと手狭だからさ〜もうちょっと広げようと思ってんだ」
バーツは今ある畑の方を見ながらそう言う。
「これ以上か?お前、この城の土地全部耕すつもりじゃないだろうな?」
「それでも足りねえよ」
あっさりそう言ってのけた。
まったく、あきれた奴だ。とはいえ、イクセにいた時にはもっと広い土地を世話していたから当然といえば当然なのだが。
「そういや、何か用なのか?パーシィ」
「ん?ああ・・・」
そうだった、そう思い傍らに置いてあった包みを取り出した。
「なになに?」
「この前、お前に頼まれたやつなんだが・・・」
そう言って、パーシヴァルはバーツに包みを手渡した。
「うん?」
バーツが包みを開けると中から出てきたのは一切れのアップルパイだった。
「すまん・・・色々あって・・・残ったのはそれだけなんだ・・・」
バーツの顔を見ることが出来ず、うつむきかげんでそう言った。
「いーよ、別に。沢山あっても食べきれないだろ?だったら欲しいやつにもらってもらった方がいいって」
バーツは全く気にする様子は無く、パーシヴァルに笑顔を向けた。
その笑顔が余計に罪悪感を増させる。
「でも、結果的には残り物だ・・・」
「だから気にすんなって。ちゃんと作ってくれたんだし」
バーツは無造作に手でアップルパイをつかむと、いただきまーすと言ってそれを口に運んだ。
一口かじってもぐもぐとしていたが、ややあって
「うん、うまい」
と言い、また一口かじった。
パーシヴァルはその様子をまじまじと見つめていた。
(なんか・・・物食べてる時もいい顔してるんだよなぁ、こいつは)
こんな顔の男があまりに嬉しそうに、幸せそうに食べる様は思わず見惚れてしまう。
パーシヴァルが黙りこくったまま自分の方を見ていることに気づいたバーツは、もう半分以上食べてしまったアップルパイをパーシヴァルの目の前に差し出した。
「?」
「いる?食べてないんだろ?」
バーツはパーシヴァルがそれを食べたいのだと思ったらしい。
「いや、俺はいい・・・」
正直、別に食べたいわけではなかったのでそう答えた。
「そうなのか?んー、でもほら、ちょっと味見。した方がいいだろ?」
と言い、差し出したアップルパイを引っ込めようとしない。
「だから・・・」
(そういう事を真顔でやるから誤解されるんだ・・・。まあ・・・何も考えてないんだろうが・・・)
はあ・・・とパーシヴァルからため息がもれる。
「?」
不思議そうな顔をしているバーツを前にパーシヴァルはアップルパイを一口かじった。自分では最大限冷静を装って。
味は悪くなかった。人にあげても大丈夫なくらいには。久々に作ったにしては上出来だった。
「ちょっと甘かったかもな・・・」
口の中に甘さが残る。
「そうか〜?おれは別に」
そう言うとバーツは残りのアップルパイを口の中に放り込み、指先まできれいに舐めていた。
「美味かった!ごちそーさん!!」
満面の笑みをパーシヴァルに向ける。
「さあて、仕事の続きやんなきゃな〜」
バーツは立ち上がるとズボンをパンパンと叩いた。
「なあ、バーツ・・・」
「ん?」
まだ座ったままでいるパーシヴァルはバーツを見上げた。
「その・・・覚えてるか?作ってやるって言った時に言ったこと・・・」
「?」
バーツはポカンとした様子で突っ立っていた。
「でも結局お前にはあれだけしかあげられなかったわけだし・・・」
「ああ!あの事か!」
言われて初めて思い出したといったようにバーツは答えた。
「まあ、約束は約束だし、ちゃんと作ってくれたんだからいいんじゃねえの?」
「え・・・?」
あっさり言うバーツを前にパーシヴァルは怪訝な顔をした。
「おれの休みなんていつになるか分かんないけどな〜。それでも良きゃ付き合ってやるよ」
そう言って、微笑した。
「そうか・・・」
パーシヴァルは立ち上がると服についた汚れを払い落とした。
「バーツ!」
「は?・・・!!」
すでに畑の方へ行こうとしていたバーツの腕をつかんで自分の方へ引き寄せ、有無を言わさずに唇を重ね合わせた。
先ほど食べたアップルパイの甘さが感じられた。
「っ・・・!!」
程なくパーシヴァルはドンっとバーツから突き放された。
「なっ、何だよっ!!」
「味わい足りなかったんだ、アップルパイ」
顔を紅くして叫ぶバーツを前にパーシヴァルはいたって冷静にそう言った。
「楽しみにしてるよ、休み」
バーツに向かってにっこり微笑んでみせた。
バーツはパーシヴァルを睨みつけ
「知らねえよっ!ばかっ!!」
と言うとくるりと向きを変え畑の方へ行ってしまった。
パーシヴァルはクスクスと笑いながら自分の元を去っていく後姿をしばらく眺めていた。
「やっぱりちょっと甘かったな、俺には」
口の中に残る甘さを味わいながらそう呟いた。


=END=

パーシィちゃんは料理上手ってのを出してみました。
その他はまあ、相変わらずの片想いちっくな感じですね(^^;

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